2023年、急転直下

2023年、人生で一番と言ってもいいぐらいの衝撃的な出来事がわが身に降りかかった。

周囲を見渡して、それがよくあることなのは解っていた。けれど、自分だけは関係がないと思い込んでいた。

思い込んでいただけに、実際に体験してみると、その衝撃たるやすさまじかった。

 

Sexy Zoneにハマった。

 

これは、「ジャニーズ? はあ、SMAPとV6、あとTOKIOKinki KidsKAT-TUNぐらいまでならギリ解りますけどあとはさっぱりっすね~。あ、嵐は解りますよ! ……え、Snow Manて9人もいるんすか? SixTONESは6人……ストーンズって読むことぐらいは知ってるけどメンバーはわからない……関西はもうさっぱり解らない……」がせいぜいだった30代女が、急転直下でSexyZoneにハマった記録だ。

 

■知ってはいるけれど

SexyZoneにハマった経緯を説明する前に、ざっくりと、私のジャニーズ歴とも呼べないジャニーズとの付き合いの歴史を説明したい。

・学生時代は「学校へ行こう!」全盛期。軟式globeでげらげら笑い、ちょっとでも時間があればリズムに合わせてをやっていた記憶がある。ただ、ジャニーズの話を振られたら「岡田くん格好いいよね~」と返すぐらいで、V6にも、さらに言えば格好いいよね~と言っているはずの岡田准一にもさしたる思い入れはなかった。それは他のグループでも同じで、SMAPなら草彅剛が好きだしKinki Kidsなら剛が好きだな~と思っていたが、本当にそれだけだった。

・大学時代に塾講師のバイトで見ていた中学生がKAT-TUN赤西仁激推しで、CDを複数枚買っているとの話を聞く。当時の私にとってCDは1枚あれば十分だし、通常版と初回限定版で特典が違おうとも吟味して1枚を選ぶものだと思っていたので、「中学生が?!CDを複数枚買う?!」と、なかなかのカルチャーショックを受けた。ちなみにこの後、赤西仁はグループからの脱退を発表し、高校生になった彼女は泣きながら塾に来た。

・社会人になり、アルバイトの子がSMAP香取慎吾激推しで、ライブにも毎年行っているとの話を聞く。当時は嵐が国民的アイドルの名をほしいままにしている頃だったので、私よりも若いあなたがSMAPなんだ?!と、新鮮に驚く。言うまでもなくこの時期にSMAPの解散報道があり、アルバイトの子に「……大丈夫?」と声をかけたら即答で「大丈夫じゃないです!!!!!!!!!!」と返されたのは記憶に新しい。

というわけで、私のジャニーズとの付き合いは、日常生活に結構浸透してはいるものの、我がごとではない、というのが最も近かった。そもそも私はあまりテレビが得意ではなく、洋画ばかり見ていて海外俳優に夢中だったし、アイドルにしても男性アイドルよりはPerfumeやBLACKPINKなどの女性アイドルのほうが好きだった。「ジャニーズ?(笑)」と特段あざけるでもなく、かといって「ジャニーズ!!!!」と熱狂するわけでもない。もしかすると人はこれを無関心と呼ぶのかもしれないが、無関心にしてはV6のDarlingはいまだに好きな歌だし、嵐だとtruthの大野くんを見てキャーキャー騒いだりもしていた。でもそれだけだった。

彼らは私にとって、日常の一風景に過ぎず、自分が熱狂する対象ではなかったのだ。

そう。

2023年2月17日までは。

 

■転機は突然訪れる

この日付を見てどれくらいの方がピンとくるのかはわからないが、この日、私はたまたまテレビをつけていた。前述のとおり私はあまりテレビが得意ではなく、つけてもラジオ代わりにスポーツ中継をだらだらと流していることが多いので、地上波のバラエティ番組が流れていたのは、正直に言って奇跡に近い。あるいは中島健人であれば、これこそを運命と言うのかもしれない。

「あ、菊池風磨だ」

一緒にテレビを見ていたものが言う。テレビには言葉の通り、菊池風磨が映っており、学生時代の思い出のお店巡りをしていた。

詳細は避けるが、私はこの番組で、自分と菊池風磨に接点があることを知った。へえ、と思って、それでしばらくのあいだ番組を見ることにした。この時点で私が菊池風磨について知っていることは、その接点と、番組で紹介された情報だけだ。彼がSexy Zoneのメンバーであることも認識していたかは疑わしい。ともあれその番組は私に強烈な印象を残したし、それまでぼや~っとしか知らなかった菊池風磨が、思いのほかしっかりした人で、負けず嫌いで情に厚い人なんだな、と知るいいきっかけにもなった。

「……私、菊池風磨のことよく知らないけど、わりと好きかもしれないな」

テレビを見ながらそうこぼす。一緒に見ていた人間は、私なんかよりずっとテレビっ子で、私の言葉にあっさりと賛同を返してくれた。

「解る。私も結構いいなって思ってるんだよね。ファイトソングの演技もよかったし」

思えばこの時、すこしでも否定的な意見を返されていたら、私はここまでSexy Zoneにはハマらなかったかもしれない。「いい年してなに言ってんの?」などと返されていたら、「あ、はは、そうだよね~……」で引き下がったかもしれない。実際、私の周りにも筋金入りのジャニオタがいるが、いつからか大っぴらには語らなくなった。よくない固定観念だと今ならはっきり断言できるのだが、しかし心のどこかで、「いい年をしてジャニーズ(あるいは男性アイドル)が好きと言うのは恥ずべきことだ」との意識があったのは確かだった。

だというのに、簡単に賛同を得てしまって、私は驚いた。どころか相手がテレビっ子すぎて、「ファイトソングで〇〇が〇〇するシーンがあって〇〇するんだけど、そこの菊池風磨の演技がマジでよかったんだよ~!」とまで語ってくれる始末だった。あ、はい、すいません見てないです……と思いながらも、ああ私、ジャニーズのことを好きって言ってもいいんだな、とも感じた。

なんとなく、心のどこかで勝手に背負っていた荷物が楽になった気がした。

 

■なにがどうしてこうなった

テレビでの邂逅を経て、菊池風磨のこと、ちょっと気になるかも……との感情を認めたあと、私は恐る恐るYouTube菊池風磨を検索した。そのころは前年のドームライブとアリーナのライブの模様を収めたDVDが発売しており、そのダイジェスト映像を見て、私は度肝を抜かれた。

youtu.be

え、めっちゃいいじゃん。

バカの感想だが、それしか浮かばなかった。何なら流れてくる楽曲のすべてが好みだった。これは私がザ・ハイライトに収録されている楽曲に親和性を覚えたというのもある。ちょうど私が好きな曲調で、何よりとっつきやすかった。最新アルバムが全曲アイドル全振りであったなら、もしかしたらこうまでSexy Zoneにはハマっていなかったかもしれない(念のため付言しておくが、王道アイドルソングも好きだ。何と言ってもV6のDarlingが好きな女なので……)。

中でも、THE FINESTのライブ映像で、菊池風磨が自分のパートを歌い終わったあとにふっと笑った瞬間を見て、心の底からの「キャー!」が飛び出した。いや、いやいや、話が違う。そう思った。私が想像する菊池風磨はバラエティの菊池風磨で、それでも十分にシュッとしたお兄さんではあったのだが、ライブ中の菊池風磨の威力たるやすさまじかった。5分ほどのダイジェスト映像を私は何度も繰り返し再生し、くだんのTHE FINESTの菊池風磨も何回も再生してはそのたびに「キャー!」と叫んだ。平和だ。頭出ししてあるのでよかったら見てください。何回見ても「キャー!」だ。

youtu.be

とはいっても、すぐにこのライブDVDを買ったわけではない。私の財布のひもはぎっちぎちに硬く、「気になるかも……好きかも……?」のレベルにあるアイドルのDVDを買うには、あと一押しが足りなかった。

 

DVDを手元に置かない代わりに、というわけでもないが、YouTubeで視聴可能なPVを片っ端から再生して回った。強烈に印象に残っているのはRIGHT NEXT TO YOUとLET'S MUSICで、ライネクはその楽曲のクオリティの高さと全員のポテンシャルに見事に打ちのめされ、レツミュは冒頭の寸劇の可愛さに打ちのめされた。このころにはSexy Zoneのメンバーは中島健人佐藤勝利松島聡菊池風磨の4人であることを理解した。そして、自分がマリウス葉の卒業には間に合わなかったことも知った。Sexy Zoneというグループが、様々な紆余曲折を経て今日まで活動してきたことも、なんとなくの情報ではあるが、把握しつつあった。

思春期の少年たちがグループを組んで活動をするということは、そこには多かれ少なかれ物語が存在する。それはSexy Zoneに限らず、すべてのグループに言えることだ。誰であっても、あっという間にデビューして、とんとん拍子に売れて、国民的アイドルになるわけじゃない。そこには血の滲むような努力があり、衝突があり、和解があり、成長がある。私はSexy Zoneの物語をリアルタイムで経験したわけではないし、いまとなっては彼らが「表に出して語ると決めた」ことしか知ることはできない。しかしそれだけでも十分だった。彼らが歩んできた道のりは、果たして思春期の少年たちが経験すべきものであったのか、私にはわからない。デビュー当時から応援していない私に何を言う権利もないとも思う。ただ、それでもなお、こうしてグループの形を保って活動していることに、少なからぬ感銘を受けたことだけは確かだった。

まったくの私事ではあるが、当時の私は仕事で行き詰まっていた。自分ではどうにもならない状況に振り回されて、トイレにこもって泣き、泣いたことを隠してデスクに戻る日もあった。幸い、煙草休憩などで席を外すことに寛容な文化ではあったので、いよいよつらくなると私はスマホを持ってトイレにこもった。スマホで見ていたのはSexy ZoneのPVで、たった3分の動画を見て、彼らも頑張っているんだから私も、と何とか自分を奮い立たせていた。奮い立たせて、奮い立たせて、いよいよ3分のPVじゃあもうどうしようもできなくなり、私はザ・ハイライトのBlu-ray初回限定盤を買った。8,000円程度で私の気持ちが立て直せるなら安い。そう思った。

 

■アイドルを浴びる

冒頭から泣いている松島聡、声を張り上げる佐藤勝利、感極まった表情の中島健人に、微笑みを浮かべる菊池風磨。初めてちゃんと見るジャニーズのライブに、私は夢中になった。佐藤勝利はどの瞬間を切り取っても美しく、その儚い歌声にも魅了された。松島聡のはじけるような笑顔とキレッキレのダンスパフォーマンスをこれまで知らなかったことを後悔した。菊池風磨の甘い歌声は色気の塊であったし、彼の表情や言動のすべてが「そりゃあみんな菊池風磨を好きになる……」との説得力に満ちていた。しかし、私の心を何よりもわしづかみにして離さなかったのは、中島健人という存在そのものだった。

それまで、私にとっての中島健人は、セクシーサンキューの人でしかなかった。ちょっと顔が綺麗で、バラエティで面白いことを言うお兄さん。その印象が強かった。だから、彼が全力でアイドルに振り切っている姿を初めて目の当たりにし、そのプロ意識の高さに心底驚かされた。彼が画面のどこにいようとも、気づけば私の目は中島健人に釘付けになっていて、彼から一秒たりとも目を離すことができなかった。一分の隙もなくアイドルで、どこまで行ってもアイドルで、何をしていてもアイドルだった。彼がこんなにも歌がうまいことを知らなかったし、こんなにも踊れる人であることも知らなかったし、何ならこんなにもトンチキな人であることも知らなかった。初めて浴びるアイドルに、アイドルの『ケンティー』に、私は完膚なきまでに叩きのめされた。そうしてザ・ハイライトを見終えるころには、私はもう中島健人のことしか考えられなくなっていた。もっと彼のことを知りたい。そう思った。こうして、沸騰ワード10の菊池風磨で入ったSexy Zoneの沼で、私は最終的に中島健人にたどり着いたのだった。

こうなれば、あとはもう真っ逆さまに落ちるだけだ。私は手当たり次第に過去のライブDVDを買った。DVDをより良い環境で見たくて大型のPCに買い替えもした。財布のひもがぎっちぎちに硬いなんて二度と口にするな。そうして届いたDVDを、毎晩1枚ずつ大切に見た。repaintingに収録されているUnrealityのパフォーマンスに魅了されたかと思えば、そのあとの中島健人の謎の煽り、「横浜セクシー感じてんのか!」で爆笑した。POP×STEP!?で松島聡の姿を見た時には誇張抜きに大号泣した。Wonder Loveの噂の絡みを目撃し、これがふまけん……と慄いた。楽しかった。そして同時に、安堵してもいた。というのも私の仕事の状況はまったく改善されておらず、もうこのまま心が死んでいくのではないかと思っていたところで、きちんとエンターテインメントに触れて心が動いたことに心底安心したのだ。DVDを見て泣いて、ああ、ちゃんと感動で泣けるんじゃん、と思った。それに気づかせてくれたSexy Zoneには、感謝の気持ちしかなかった。

時期はちょうど3月で、いまファンクラブに入れば、会員限定でバースデーメッセージ動画が見られるという。私は悩むことなくファンクラブに入会した。人生で2回目、年にして10年ぶりのファンクラブ入会だった。そうして、ワクワクしながら見たバースデーメッセージ動画は、会員の方ならご存じの通りカオスの一言だった。それでも楽しそうにしているメンバーの姿に、なにより中島健人の笑顔に、私は確かに元気をもらったのだった。

 

■いろいろなことがありました

初めてジャニーズのCDを買った。3枚同時にCDを買うなんて初めての経験だったし、なんならさらに3枚追加した。朝イチでCD店に駆け込むなぞ自分の人生には起こらないと思っていたが、ポスター抽選のために列に並びながら、ここにいる人たちはみんなSexy Zoneのファンなのだなと感じて嬉しくなった。なぜなら私にはジャニオタの友人こそいれども、Sexy Zoneファンの友人はいないからだ。

初めてジャニーズのライブに行った。会場で浴びるキラキラはあまりにも眩く、帰り道で私はほとんど生気を吸い取られたような状態になっていた。いまだに私はライブ後の記憶がほとんどない。会場に魂を置いてきているのかもしれない。ファンサうちわを持ったのも、ペンライトを掲げたのも、人生で初めてだった。ちなみに、私はあまりファンサうちわをアピールできない。彼らを目の当たりにすると、「キャー!」よりも「い、生きてる……!」で胸がいっぱいになってしまい、うちわを支えに立っていることしかできず、なんならちょっと後ずさってしまうからだ。今後なんとかなるんでしょうか。

初めてジャニーズショップに行った。人生でジャニーズショップに足を踏み入れる日が来るなんて想像もしていなかったが、ディスプレイにスマートフォンをかざして写真を買う体験は新鮮で楽しかった。あと、Sexy Zoneの冬のアンバサダー写真待ってます。

初めてちょっこりさんを連れてパネルと写真を撮った。それまでぬいぐるみを連れて出かけたこともなければ写真を撮ったこともない私にとって、これはセンセーショナルな出来事だった。いまではちょっこりさんがいない生活など想像できないぐらい、私はちょっこりさんに骨抜きになっている。

現在進行形で、初めてこんなにも大量の雑誌を毎月買っている。編集部にお礼のはがきを出したのも初めての経験だった。雑誌を手に取るたびに、中島健人よ、Sexy Zoneよ、美しくいてくれてありがとうの気持ちが湧くのだと言うことも初めて知った。はじめて尽くしだ。

 

2023年、私は初めてジャニーズのアイドルにハマった。ジャニーズのファンでなくとも知っての通り、2023年のジャニーズは様々な出来事に見舞われて、友人からは「なんでこのタイミングで……」と同情されることも多かった。ほんとにな、と思う。けれど、たぶんこのタイミングでなければ、私はSexy Zoneにはハマらなかった。彼らが積み重ねてきたものと、私の状況と、様々なタイミングが合致しての今だったのだろう。

ジャニーズにハマって、私はそれまでまったく知らなかった世界に触れた。ジャニーズ特有のいろいろな文化に目を丸くし、時に疑問を抱くことだってあった。でも、知らない世界を知ることは、いつだって楽しい。だからこの一年は、私にとって、楽しい一年であったのだと胸を張って言える。できれば来年もこの楽しさが続いてほしいと願っているし、その先も、彼らが歩む道に祝福があるように、その道のりを応援できるようにと祈っている。彼らを構成する要素が様々に変化し、名前が変わり、状況が変わっても、彼らを応援したいという気持ちに変わりはない。